↑のタイトルは、僕のポートレート撮影に来てくれた女性の被写体さんからストレートにぶつけられた質問です。
「美人なら嬉しい?ブスならがっかり?」ってずいぶんトゲのある言い方だし、ルッキズム論争をちらほら見かける今の時代に、このテーマについて語るのは正直怖いです。
でもこの疑問、被写体に興味をもっている人の多くが、少なからず抱いていると思うので、僕の気持ちを言葉にしてみます。
(そもそも美人、ブスという言葉自体が個人の感覚によって意味が変わるものですが、今回のご質問に対して曖昧な答えを返したくないので、この「美人」という言葉をそのまま使わせてください)
CONTENTS
美人が来たら、カメラマンはテンション上がる?
まず前提として、僕のポートレート撮影では事前に被写体さんの容姿確認はありません。
被写体さんがSNSアカウントにご自分の写真を上げていない限り、撮影当日に初めて僕は被写体さんの容姿を知ることになります。
ここで本題です。
待ち合わせの場に綺麗でスタイルのいい人がやってきたら、カメラマンの僕のテンションは上がるでしょうか?
僕はむしろ、慎重になります。
「手を抜かずにやろう」って自分に言い聞かせるんです。
美人は適当に撮っても絵になりやすい
一般的に美人の写真は、多くの人の目に「絵になる写真」として映ります。
仮にちょっとくらい表情が固くても、SNSに上がった美人の写真には、たくさんの「いいね」がつきやすい。
カメラマンが適当に撮っても、美人の写真は「絵になる」と他の人に評価されやすいんです。
じゃあその適当に撮られた写真を、美人の被写体さんご本人はどんな気持ちで見つめているでしょうか?
他の人たちが全く目をつけないところが、きっとご本人には気になると思うんです。
「この写真のわたし、目元に力入ってるな」とか「笑顔がこわばってるな」みたいに。
コンプレックスを口にすることさえ許されない美人をどう撮るか
少し話が逸れますが、むかし釈由美子さんという美人でスタイルのいいタレントさんが、インタビューで「自分の容姿にコンプレックスがあった」と話してました。
そのインタビューを見た僕の女性の友だちが、翌日口を尖らせてこう言ったんです。
「ぜいたく言うなよ。あんなにかわいいのに」
美人は「自分を好きじゃない」って口にすることさえ許されないんだなって、複雑な気持ちになったのを覚えてます。
話を戻します。
美人の中には、他人から容姿を褒められる機会が多いことから、自己肯定感が高い人もいるでしょう。
でも、そうじゃない人もいるってことを忘れたくない。
撮影に来てくれた被写体さんが美人でも、「もしかしたらこの人も何かしらのコンプレックスを抱えてるのかもしれない」っていう可能性を、胸の片隅においておきたいと思うんです。
コンセプトページにも書いていますが、僕のポートレート撮影は、他人に評価される「絵になる作品」を撮ることが目的ではありません。
あくまでも被写体さんご本人に「わたし、思ってたよりかわいいかも」って、自分を肯定的な目で見つめてもらうことを目指している撮影なんです。
そんな撮影を選んでくれた被写体さんだから、たとえ美人であってもご自分に対する複雑な思いがあるかもしれない。
だから、適当に撮っても絵になる美人でも、手を抜かずに撮る。
・初めての撮影への不安を解消する
・気が乗らないことは無理にさせない
・綺麗な光を見つける
・肩の力が抜ける空気を作ってシャッターを切る
これらのことを、「今日もちゃんとやろう」って慎重に自分に言い聞かせる。
それが美人が撮影に来てくれたときの僕の気持ちです。
美人じゃない人が来たら、カメラマンはテンション下がる?
テンションが下がるのではなく、僕はその後の撮影が楽しみになります。
テンションが高いワクワク感ともちょっと違って…例えるなら、友だちを内緒で喜ばせようとしているときの気持ちに近いかも。
自分に自信がない人は、撮影が進むにつれて必ず綺麗になる
自分の容姿に自信がない方は、不安や緊張からか、撮影当日に固い表情で待ち合わせ場所にいらっしゃることが多いです。
ガチガチのそんな姿を見ると「緊張がとけてお顔の力が抜けたら、この人はどんな表情を見せてくれるだろう」って、楽しみになるんです。
時間とともに不安や緊張がやわらいでいくと、だんだんと力の抜けた素の表情に近づいていく。
すると必ず、綺麗になっていくんです。
待ち合わせのときの表情と比べると、格段に魅力的に見える。
撮影中に僕が被写体さんに「かわいい」とか「綺麗」って声をかけると、「いやいや、絶対思ってないでしょ!」って突っ込みたくなる人もいると思うんです。
もちろん被写体さんのテンションを上げるために褒め言葉をつかうカメラマンもいるだろうけど、僕はそうじゃない。
僕の目には、撮影が進むにつれてどんどん綺麗になっていく姿が映ってるんです。
「被写体は美人がやるもの」という先入観
以前、僕の撮影に来てくれた1人の女性が、待ち合わせるなり「わたしみたいな人が来てごめんなさい」って頭を下げたことがありました。
なんとも言えない悲しい気持ちになるから、「そんなこと言わないでよ」って思います。
でも、そう言いたくなる気持ちもちょっとわかる気がする。
SNSのポートレート系タグのトップに出てくるのは、たいてい美人の絵になる写真だから。
被写体に興味をもってはみたものの一歩を踏み出す勇気が出ないのは、「被写体は美人がやるものだ」「カメラマンは美人しか撮りたがらない」っていう先入観が、SNSを見るたびにどんどん強くなっていくからだと思うんです。
被写体のために写真を撮るカメラマンにとって、美人かどうかは関係ない
美人だけを撮るカメラマンもいます。
美人じゃなくても、「被写体さんに喜んでもらうこと」を目的にしたカメラマンもいます。
ちなみに僕のポートレート撮影の目的は、次の二つです。
- 被写体さんに、今まで気づかなかった自分の姿を知ってもらう
- 自分が好きになれない姿でも、他の人の目には魅力的に映っていることに気づいてもらう
この二つの願いに、あなたが美人かどうかは関係ないんです。