KAORU MATSUMOTO Photographer

あるお母さんが、保育士である僕に
こんな言葉をこぼしました。 「いつも子どもに怒ってばかりの私は、
いいママといえるのでしょうか。
夜に安心した顔で眠る子どもを見ていると、
そんな自分が嫌になってくるんです」 「いいママ」って、
どんなお母さんでしょうか。
いつも優しくて、笑顔の絶えないお母さん? いや、それだけではない気がするんです。 毎日の生活の中で、あなたが
子どものために無意識にやっていること。
誰かが褒めてくれるわけではないけれど、
子どもへの思いが込められたさりげない行為。 日常の子育ての中には、
お母さんのそんな姿が
たくさんあると思うんです。 僕が写真に残すのは、
あなたのそんな姿です。

01
その手に込められたもの

幼いころのお母さんの手を覚えていますか。
私の記憶にあるのは、
頬をなでてもらったときの
包みこまれるような感触です。

あのころ、とても大きく感じたお母さんの手。
その手に込められた、子どもへの思い。

 おおきなパンを   ちぎってくれたり
 口をきれいに   ふいてくれたり
 ながい寄り道に 付き合ってくれたり
 背中を そっと 支えてくれたり
02
見守るということ

振り向くと、そこにはいつも
あなたの眼差しが待っている。
たったそれだけのことが
子どもにとっては何よりも嬉しいようです。

  砂あそびに 夢中のときも
 ごはんを 食べているときも
 いつだって 見ていてくれた
「咲いてたね」 ただそれだけの言葉が    嬉しかった
03
今だけの姿を

今の年齢ならではの子どもらしい姿。
大好きな人に甘えたり
自己主張をしてみたり
なんでもイヤイヤと言ってみたり。

今は見慣れたそんな姿も、後から振り返れば
懐かしくて愛しい姿に思えるかもしれません。

お母さんが大好きな女の子。
ご飯の支度をお母さんがしている間は、お父さんとあそんでいました。
でもしばらくすると寂しくなってきたのか、段々と不安そうな顔に。

その様子を見たお母さんは手を止めて、おんぶをしにきてくれました。
そのまま台所で、ご飯作りを再開。
女の子の満足そうな表情が印象的でした。

散歩中のひと休み。
女の子は、お母さんにジュースを買ってもらいました。
一口飲んだところで、弟にも分けてあげるように言われたお姉ちゃん。
渋々ながらも弟にペットボトルを差し出しました。

そんなお姉ちゃんの気持ちなんてお構いなしの男の子。
一度口をつけたらペットボトルを中々離そうとしません。
その勢いのある飲みっぷりに、とうとうお姉ちゃんはこらえきれず、「全部飲んじゃダメ!」と怒ってしまいました。

お母さんが抱っこしているのは、眠ってしまった0歳の男の子。
そして背中には、まだまだ甘えん坊のお兄ちゃん。
そんなお母さんの荷物を手にとってくれたのが、一番上のお姉ちゃんでした。

大人用の大きなバッグを、ときどき地面に引きずりながら、先を進んでいくお姉ちゃん。
後ろから届く「大丈夫?」の声に、静かに頷いていました。

そうそう、この女の子。
2年前は自分のお気に入りのおもちゃだけを、ずっと手にして歩いていたんですよ。

たっぷり遊んだ公園からの帰り道。
お父さんに抱かれていた男の子が、急に身をよじって「降りる」と言いました。

お母さんのお腹には赤ちゃんがいます。
そのため公園での遊びは、全てお父さんが引き受けていました。

一緒に体を動かして、一緒に砂まみれになって遊ぶお父さん。
男の子も、お父さんととても楽しい時間を過ごしたように見えました。

そんな公園からの帰り道で、男の子は
「ママがいい。ママ、抱っこして」
と言ったんです。

お母さんは、男の子をそっと抱き上げました。
わずかな時間の抱っこだったけれど、
地に足をつけた男の子は、「もっと」とは言いませんでした。

あわただしい毎日の中で、
子育てに奮闘するお母さん。

そんなご自身の姿を
少しだけ離れたところから、
優しい目で見つめるきっかけになることを願っています。

そしていつかお子さんが大人になったら、
この写真をぜひ見せてあげてください。
遠い昔のお母さん、お父さんの姿を
お子さんにも知ってもらうことができたなら、
私にとってこんなに嬉しいことはありません。