KAORU MATSUMOTO Photographer

子どもに「あとでね」と言ったことがある人へ

子どもは大人にたくさんの要求をします。
抱っこしてほしい、絵本を読んでほしい、一緒に遊んでほしい。
そんな要求にすぐに応えられないときに大人が口にするのが、「あとでね」という言葉です。

それは便利で、とても曖昧な言葉です。

子どもは大人の心をよく見ています。
「あとでね」と口にする保育士の顔を見上げる子どもは、どんなことを考えているのでしょう。

「この人は、ぼくとの約束をちゃんと守ってくれるかな?」
そんな風に、期待と疑いの間を揺れ動いているのだと思います。

保育士である僕は、「あとでね」の言葉を口にすべきではないと考えています。
元々怠け癖があるので、ぼんやりした言葉だと先延ばしになっちゃうから。

子どもの欲求をすぐに満たしてあげられないときに真っ先に考えるのが、「いつなら(どこなら)やってあげられるだろう」ということです。
「先生、絵本よんで」と近づいてきた子に対して、「今赤ちゃんにご飯を食べさせているから、赤ちゃんが食べ終わったら絵本読むね。」と伝える。
「あとで」  という曖昧な言葉ではなく、明確な見通しを子どもの前で宣言する。

その言葉は、子どもにとってわかりやすいだけでなく、口にした僕自身も「その約束を死ぬ気で守らなきゃ」と覚悟を決めることになります。

子どもが大人のことを信頼しなくなる過程には、2つのケースがあります。

  1. 子どもの気持ちを、大人が受け止めない
  2. 子どもの気持ちを受け止める言葉を返したのに、その約束を守らない

つまり、ごまかすか嘘をつくかの2つです。

ちょっとした約束を大人に守ってもらえずに泣き出した子どもに対して、「そんなことくらいで泣かなくたっていいじゃん。」と呆れ顔をする人もいます。

この「そんなことくらい」という言葉が、僕は好きではありません。
大人にとってはつまらない約束でも、子どもにとっては楽しみにしていた大事な約束なんです。

多くの人が真っ先に思い浮かべる保育士の仕事は、「子どもと楽しく遊ぶ」「子どもの世話をする」といったことですよね。
でも、それらの仕事の大前提になるのが、「子どもと信頼関係を築く」ことです。

そのために、僕たちは子どもと交わした小さな約束を全力で守ろうとするんです。
「必要な書類を書かなくてはならない」
「数日後に迫る行事の準備をしなくてはいけない」
抱えている複数のマストの仕事の中で、子どもとの小さな約束の優先順位をグッと最前線に持ってくる。

「この人は、”できない” の後に必ず”できる”を用意してくれるはず」
そんな印象が子どもの中に定着したときに、「今はできない」という大人の言葉を受け止めて我慢したり待ってみることが、段々と苦にならなくなっていくのかな、と思います。

最後に注意を2つ。

1つ目は、子どもの年齢によっては、具体的な見通しをもつことが難しい場合もあるということ。
「あとでね」という簡単な言葉の方が理解しやすいケースもあるかと思います。
大人にとっての都合のいい言葉ではなく、「子どもにとって意味のある言葉」なのであれば、ぜひ遣ってあげてください。

もう1つは、ここでお話したことは、常に複数人のチーム体制で子どもと関わっている保育士だからこそ言えることです。
もしかしたら、家庭での子育てには、そっくりそのまま当てはめることができないかもしれません。

「子どもと約束したのに守ってあげられなかった」、そんなときもあると思います。
そんなご自分をあまり責めないでください。

「守ってあげられなかった」の裏に隠れた「守ってあげたかった」というお母さんの気持ち。
たぶん、その気持ちはお子さんに伝わっているんじゃないかな、という気がします。

このブログの中には、私が保育士として遭遇した子どもの姿に触れている記事があります。記事の公開にあたり、個人の特定につながらないよう必要に応じて人物の情報や状況を類似のものに置き換えています。